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【二十四日目】読書感想 新井素子『グリーン・レクイエム』

こんにちは。
今回紹介する小説は、新井素子グリーン・レクイエムです。
表題作のほかに二作を収録した短編集ですが、ここでは『グリーン・レクイエム』の感想だけを紹介します。ネタバレもありますので未読の方は注意!

 

 

あらすじ。
大学で植物学の研究をしている嶋村信彦には奇妙な思い出があった。七歳のころ家の裏山に迷い込んでしまった信彦は、森の中で古めかしい洋館を見つけ、そこで緑色の髪の少女と出会った。洋館から美しいピアノの音色が聞こえてくる。緑髪の少女と言葉を交わした幼い信彦は、話の途中で急に怖くなり帰ってしまう。その後、洋館を再び訪れることはなかったが、彼はその女の子のことが決して忘れられなかった。時は流れ現在。信彦が最近公園で見かけた女性――三沢明日香――は、彼の初恋の少女によく似ていた。


結論からいうと、個人的には好みではない話でした。読み始めたときは「うんうん」、途中から「…?うーん……」、最後には「えぇ……」。

今回はけっこう辛口の感想になると思います。この小説がお気に入りの方には申し訳ないです。

 

 


ストーリーの主軸は嶋村信彦と三沢明日香の恋の物語です。そこに、SF(ファンタジーよりかな?)の設定ショパンやリストのクラシックがモチーフとして織り込まれています。
読んでみて、いいな、と思った部分もいくつかあります。例えば、「(自分が)存在することを誰にも悟られずに生きてゆかなきゃならない」なら死んでいるのと同じだ、という明日香の台詞。これは追及しがいのある深みがあるテーマだと思いました。また、明日香たちの第二の育ての親である三沢氏が「彼ら」の短い寿命を知りつつも、そのことをあえて明日香に伝えなかったという場面を読んだときは、果たして不都合な真実を伝えないことがやさしさといえるのだろうか、それは気遣いというよりは傲慢ではないのか、と考えさせられたりもしました。
もっとメタ的な視点から見ても、異星から来た別種の生き物、ピアノの音色のようなテレパシー、植物への感情伝染といった設定は良いと感じました(ただもう少しうまく調理できたのではないかという気もします。良くも悪くも、恋愛物語へのスパイスくらいに感じました)。女の子が人間から樹に変わってしまう、という描写はギリシャ神話のダフネからとったのかな、と考えたりもしました。


しかしながら、それらを覆して余りある残念なストーリー。言っちゃ悪いですが、三文芝居か安っぽい少女漫画のような話だなと思います。序盤~中盤までは物語に引き込まれましたが、後半から一気に陳腐なところが目立つようになり……。明日香が信彦と逃避行をするシーンあたりから、二人の自己陶酔感がはんぱない。ラストで「悲劇のヒロイン」という言葉が出てきますが、まさにそんな感じです。

 

以下、気になったツッコミどころをいくつか。思いっきり個人の独断と偏見です。*1

 

「どう言えばいいんだろう。そうだな……うん、そうだ」「え?」ぱあん!急に顔の近くで音がした。それからほおが熱くなって、痛くなる。あたしは驚いて――本当に驚いて、二、三度まばたきした。

→いや言葉で説明しようよ。暴力なんですがそれは……。

 

「余計なこと考えんなよ。海がなんだっていうんだ。俺はここにいる。だから、おまえの故郷はここだ」

→明日香の顔をひっぱたいたあとの信彦のセリフ。「俺だけを見てろ」ってDV男かい。

 

(信彦に対して)笑って。ごめんなさい、あなた。あたしの心、まだ決まっていない。あたし、あなたの隣にいちゃいけないような気が、まだ、する。ごめんなさい。あなた。あなたをつきあわせちゃいけないのに。なのにあなたに連れていってもらうのね、あたし……。

 

→いやいや、君のせいで彼氏にも危害が及ぶかもしれないんやで?自己陶酔している場合ではないです。

 

「おじさん……までが、狩る側にまわったの……」「明日香。聞いてくれ」「嫌!」(中略)「どういうことです。教授、俺は――私は――、いや、俺は、明日香を絶対あんたなんかに渡さない!」

→こういう芝居がかったセリフはあまり好きじゃない。

 

Bye,信彦さん。あなたも人間なのよね。

→早合点すなー!!あと散り際にちょっとカッコつけないで。

 

「地球なんて、どうなってもよかった。すべての植物が人間に牙をむく。そうしたいならさせとけよ。おまえがいてくれたらいい」

→だから私はモテないのだと思いますが、二人の愛と地球の人類全体を天秤にかけたら絶対に後者だと思う。

 

たった一人で悲劇のヒロインになって……。

→そのとーり、そして主人公、あんたもだよ!何で海見ながら煙草ふかしてハードボイルド風にキメちゃってんだよ!

 

そして、お前の前で、嫁さんに話すんだ。おまえのこと。守ってやれなかった女の子。

→それを聞かされる嫁さんの身にもなってください。

 

 


こうやってピックアップしてみて気が付いたのですが、私が気に入らなかった点は明日香以上に共感できない主人公かと思います。誤解を恐れずいえば、「弱い女を守るのが男」といった前時代っぽいヒロイズムに突き動かされて彼女に手をあげたり、急に「おまえ」呼びになったり、最後は無駄にハードボイルド風になったりする主人公が受け入れにくいのです。明日香も明日香で庇護されることに甘んじちゃってるし。


あと、ここまでさんざん書いておいてなんですが、文体が苦手でした。倒置法の多用や「、」を「。」に置き換える表現がかえって読みにくく感じられます。

 

ストーリーの途中からラストは目に見えていたし、総評として、ロマンチストの少女が想像した悲劇の恋愛譚という印象がぬぐえません。10代向けのジュブナイルとして読むのならまあありかも。

*1:

作中から引用していますが、電子書籍版なので正確なページ数はわかりません。すみません。