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【三十五日目】読書感想 P・G・ウッドハウス『ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻』

こんにちは。今回紹介する本はP・Gウッドハウス岩永正勝小山太一訳)『ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻』です。ネタバレはなし!

 

ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻 (文春文庫)

ジーヴズの事件簿―才智縦横の巻 (文春文庫)

 

 

あらすじ。

舞台は20世紀初頭のロンドン。あるところに、才気煥発、非の打ちどころがない一人の従僕がいたーー名前はジーヴズ。ウースター家の若当主・バーティに仕え、今日も鮮やかに無理難題や事件を解決している。次々に縁談を持ちかけてくる叔母さん、親友ビンゴの頼み事、その他もろもろの厄介ごとも、この男の手にかかれば問題なし!

 

この本を知ったきっかけはニュースから。

headlines.yahoo.co.jp

 

皇后美智子様の84歳の誕生日に行われた会見で、公務を離れたら読みたい本、としてあげられていたのがこのジーヴズ』シリーズだった。このニュースが報道された後、全国各地で本の注文が殺到し、出版元の国書刊行会文芸春秋が増版を決めたそうな。自分もそのミーハー勢の一人。とはいえ、文庫の紹介にある「世界的ユーモア小説の傑作選」の名の通り、読んでいて思わずクスッとなる小話がたくさん収録されていた。

僕の買った『才智縦横の巻』以外にも何冊かシリーズで出ているそうで、そちらを読むのも楽しみだ。

 

短編集だが、どの話も展開はワンパターンだ。気はいいけれど頭は残念な主人公の青年、バーティが、やたら縁談を勧めてくるおばさんやいつも恋に夢中な親友ビンゴなどの登場人物に振り回され、にっちもさっちもいかなくなって(もしくは良いアイデアを思いついたけど失敗して)頭を抱えているところを、ジーヴズがさっと巧みな手腕で解決してみせる。こう書くと、なんだそれだけ、という話だが、バーティの一人称から語られる軽くテンポのいい文体とちょくちょく挟まれるユーモア、それになによりジーヴズのスマートな伏線回収によって読者を飽きさせないようになっている。このジーヴズ、やはり天才か!有能だけど謙虚で気配りが抜群。いつも「漂うように」足音を立てず出入りしていて、寝る前には読書は欠かさない。ファッションというか貴族の身だしなみには少しうるさくて、意見が対立したときは主人にノーを言ったりもする。嫌味なほど完璧な対応、というけれど、心の底ではバーティのことをいい主人だと思っているんだろう。しかし、ジーヴズのように「誰かに仕えること」が一生の仕事になっている人物って、現代の競争社会で送る人生に対して、やりがいは何か、とかいった問いで悩んだりしないんだろう。それもちょっと想像がつかないけど……。

 

公務のことは何も知らないけれど、責任ある重大な仕事のあとや忙しい日々にストレスを抱えているときでも無理なく読めて元気が出てくる、そんな小説である。美智子様がこの本を読みたいとおっしゃった気持ちもなんとなくわかる気がする。何も予定がない雨の日に、おいしいコーヒーや紅茶を片手に部屋にこもって本に浸れば、とっても気分爽快になりそうだ。僕も最近は何かと重い本が多かったから、息抜きとして読むのにぴったりだった。

 

しかし、従僕というと昔読んだカズオ・イシグロの『日の名残り』を思い出す。あれとは全然違うタイプの小説だけど、古き良きイギリスってこんな感じだったのかな。若当主がいて、従僕がいて、貴族たちはあくせくせずパーティやお芝居や狩りや競馬なんかに興じている……階級社会にどことなく漂う牧歌的な空気やノスタルジー。イギリスには行ったことはないけれど、古い町並みを見たらきっとこういう雰囲気が今でも感じられるのだろうか?

 

作者ウッドハウスのことは今まで知らなかったが、この人自身もユーモアたっぷりに人生を歩んだようだ。あとがきにあったエピソードで、当時戦争中の敵国のラジオに出演したことで批判が殺到していたとき、あのジョージ・オーウェルウッドハウス擁護にまわったというのが面白い。オーウェルはあんな重たいディストピア小説を書いたり社会批判をしているのに、まったく作風の違うウッドハウスのことも応援していたんだな~って。

 

いつも忙しくて疲れているあなたに、気軽に読めてくすりと笑える一冊としておすすめの本です。