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【三十九日目】読書感想 高田侑『汚れた檻』

こんにちは。もりひびきです。

今回紹介する本は高田侑『汚れた檻』です。

ネタバレは多少ありますので注意! 

 

汚れた檻 (角川ホラー文庫)

汚れた檻 (角川ホラー文庫)

 

 

前にマンガ『うなぎ鬼』を紹介したとき、原作を書いていた作者さんですね。

 

nikogoriofmind.hatenablog.com

 

 

あらすじ。

29歳の青年、辻原一郎は工場で働いていた。不況のなかやっと見つけた就職先では、延々ときつい単調作業をこなし月収は手取りで一桁。北関東の田舎の実家近く、古い家に一人暮らし、貯金もなく、恋人もおらず、趣味といえば競艇だけ。そんな生活に閉塞感を感じつつも、何もする気が起きず漫然と塗りつぶすような毎日を送っていた。

そんなある日、競艇の帰りに小学校のころの友達・牛木と再会する。大人になった牛木は高級車を乗り回し、羽振りの良さを感じさせつつも、その姿にはどこか不吉な影があるように感じられた。ある時、牛木はドッグショーに一郎を誘い、一郎は牛木の実家が犬のブリーダー会社「夢ケンネル」として成功していることを知る。今の工場よりずっと高い給料を出すから、うちで働かないかともちかけられる一郎。一郎は牛木の会社で働き始めるが……。

 

 

今回は感想を項目立てて書いてみる。

 

読後感

いや~最悪の読後感(褒め言葉)。読んだ後は嫌などす黒い気持ちになること請け合いだ。どうしようもないダメ男のこれまたダメダメな日常に気が滅入り、牛木登場から不吉で薄気味悪い雰囲気がどんどん醸成されてくる。しかし、反比例するようにページをめくる手は止まらない。最近読んだホラー物の中ではピカ一の作品だった。くれぐれもハッピーな気分のとき、ハッピーになりたいときに読んではいけない。

 あと、最初に『うなぎ鬼』を読んだからか、主人公や登場人物、北関東の片田舎があのタッチで脳内再生された。うなぎ養殖場とペットの殺処分場って生き物を扱うという点で似ているし。特に一郎と春加は、キャラクターこそ違えど『うなぎ鬼』の倉見とミキにダブって見えて仕方がない。これほど違和感なく絵のタッチを頭の中で思い浮かべられるということは、あらためて、あのマンガの絵と小説の作品世界は絶妙にマッチしていたんだなあ、と思う。

 

どうしようもないダメ男・辻原一郎

Amazonのレビューで「この作家は社会の底辺であえぐ若者を描くのが上手い」という評を目にしたけれど、まさにその通りだと思う。不況という設定上の社会状況を差し置いても、主人公・辻原一郎のダメ人間ぷりがすごい。「このダメ人間がすごい!」ランキングで上位をとれそう。

悪人というわけではないのだが、金がほしくて、でも努力はしたくなくて、いい年して実家の母親に弁当を作ってもらい、工場で単調作業のうだつのあがらない日々を過ごしている。とにかく怠惰で鈍くさい男なのだ。出会い系サイトで女の子をひっかけられると思ってサクラ相手に課金したり、マルチ商法に誘われたり。ギャンブルにはまる様子、女性への気の利かなさ、金ほしさに白紙の委任状に署名するところなど、現実にいそうなリアルなダメ男っぷりが読んでいて嫌気がさしてくる。

危険察知能力がないのを通り越していつも悪い選択をしてしまうのも彼のおバカっぷりに拍車をかけている(もっとも、ホラー小説である以上、転落していく筋書きなのは仕方ないのだが……)。しかし、もう少し思慮深ければ防げることも多かったはず。そういう意味で、読んでいて主人公にイライラする読者もいるだろう。特にラスト。いやいや、そこまで思いついたのなら、せめて陽のあるときに作業するとか家族の誰かについてきてもらうとか警察に立ち会ってもらうとかなんでしなかったね~ん!!まあオチは見えていたけど、彼には悪いが自業自得感もなくはない。

 

教訓。

甘い話には裏がある

白紙の委任状にサインをしてはいけない。

人妻を寝取ってはいけない。

 

うすきみわるさとリアルさ

中国人の王さん。なんといっても、このキャラクターがすばらしい。常にニコニコしている得体のしれなさと、優しく接するとつけあがって生活空間に侵入してくる厚かましさ。あとは、風呂の湯に食べかすが浮いていたり、捨ててあった歯ブラシを再利用していたりと、不潔な感じがキャラをリアルにしている。別に中国人に偏見があるわけではないけど、衛生観念の違いみたいな細かい部分で異質さを浮き彫りにされるとなんとなく納得してしまう。

逆に、牛木はいまいちキャラ付けが薄かったかな?「疫病神」と評されるように、不吉なオーラをまとっている描写は何度かあるから印象深いけど、具体的なしぐさや表情などの人物像の描写が薄いからいまいち想像しにくい。とはいえ、それが牛木の飄々としてつかみどころのないところをよく表しているのかもしれないけれど……。通読後にもう一度読み返していると、主人公が今井のマルチ商法のことを相談したとき、至極軽い調子で「殺せばいいんだよ」と言っていたところにゾクリとくる。しかし彼の首筋のキズはなんでついたのだろうか……。

あとは、娯楽施設がパチンコか競馬競艇のようなギャンブルしかないところとか、ショッピングモールといえばイオンしかないところとか、うさん臭いヤクザ崩れにステレオタイプなヤンキー、マルチにはまる若者がいるところとか、そういうのも空気づくりに一役買っている。

 

「汚れた檻」というタイトル

実際にあった事件がモデルらしい。タイトルだけ読むと、ブリーダーの無理な多頭飼育による動物虐待のような、人間のエゴの醜さに振り回され、檻に詰め込まれた犬猫が糞尿垂らしたまま息絶えていく、そんなむせかえるような陰惨な環境に閉じ込められた主人公……という話を真っ先に僕は想像していただけに、実際はイヌの殺処分場が物語のキモなので「汚れた檻」感は正直薄い。

 

 

総評

ホラー物としては一級だと思う。人間の嫌な部分をこれでもか!と見たい人、ドロドログチュグチュ的陰惨を感じたい人、季節外れに肝を冷やしたい人におすすめ。幽霊やお化けは一切でてこないのでそういうのが苦手な人も安心すべし。読み終わったときはきっとイヤ~な気分になれること請け合い!!